お扇子を扱う際に気をつけるポイントはそれぞれに色々とあると思います。
基本的には「地紙」「骨」「糸」に問題なければすんなりとお使いいただけると思いますが。
今回は”どんな舞扇”でも、”誰が使って”も起こりうる「地折れ」という舞扇特有のトラブルについてお話します。
地折れとは?
そもそも「地折れ」とは?というところからお話しますね。地折れは私達がそう呼んでいるだけで、ひょっとしたら呼び方は他にもあるのかもしれません。そもそも、「地折れ?それって何ですか?」と思う方もいてるでしょう。
私は平田照樹堂で20年近く舞扇を担当させていただいておりますが、入った頃からずっと「地折れ」という呼び方で教わってきました。
地折れとは…お扇子を開いて閉じる際にペコっと裏側に紙が折れ曲がるような感じになって、おかしな癖が紙につくこと。一度地折れになると、その舞扇はそれからずっと閉じる際には地折れのクセが付いているため、スムーズには閉じることはできなくなります。
地折れになると、閉じる際に丁寧に閉じないと気持ち悪い感覚になってしまいます(^^;
皆様一度はご自身の舞扇で経験あるのではないでしょうか??
「地折れ」のよくある誤解
私は「歌舞伎ごのみ」の舞扇に触れない日はほとんどありませんので、ほぼ毎日たくさんの舞扇に触れています。
なので当然自らの手で舞扇の地折れをしてしまったこともあります。1本1本が多くの職人さんの手を渡って作られているのを知っているだけに、自らの手で地折れをしてしまうと本当に申し訳なく思ってかなり凹みますm(__)m
それも何度かやってますから(笑)
よく私自身がお客様からのクレームとして実際に聞くのが、
「あなたのところの扇、ちゃんと閉じれないじゃない!まだ1回しか使ってないのに(地折れで)閉じる時に紙が変になってて閉じられないじゃないの!」
といったお言葉。
せっかく新しく作成してお送りした舞扇…まさか1度しか使用していないのに地折れになっていて使えない、きっと送る時から地折れになっていたはず!!そう思いますよね?思いたいですよね?
でもでも…地折れは最初の1回目の閉じる際にも発生します。ほとんど起こりませんが、起こる時は1回で起こります。これは間違いありません。
そして舞扇をずっと作っていただいている職人さんの名誉のためにもお伝えしますが、紙も含めて何か不具合があった場合、作成されて私の手元に届く時点で”不良品”として別にされています。
修繕できる舞扇もありますが、ほとんどはボツになりますのでお客様のお手元にいくことはありません。
”地折れ”に関してだけをいうと、紙を折る職人さん、紙と骨を付ける職人さん、親骨を糸飾る職人さん、そして発送前に私が自分で開いて閉じてのチェック…4回は紙の具合を別々の工程で見ています。
なので、送る際に最初から地折れになっている、ということはまずありません。私も見ているのでこれは断言できます。
地折れが起こる時は本当に1回の開閉でも起こってしまう、私の経験からもこれは事実です。
長年踊りに従事しているのに
地折れされた先生方からこれまたよく耳にするのが、
「もう私は踊りを始めて〇〇年になるのよ!素人じゃないんだから地折れなんかするわけない!」
とのお言葉。しかし、これもまたよくある誤解で、舞扇を持って初日の人でも何十年も扱っている方でも、やはり地折れになる時はなります。
ただ、そうはいってもベテランの先生よりは初心者の方のほうが、やはり地折れ発生率は高いと思います。
特に一度でも地折れを体験されている方は、否が応でも舞扇の取扱いに慎重になりますから(^^;
日にもよりますが、私も1日に何十本と新しく出来上がったお扇子を開いたり閉じたりしますが、起こる時は何年経っても一瞬で起こってしまいます。
地折れの対策法
”じゃぁ地折れはどうやったら防げるの?”ということなんですが、これは「こうすれば100%大丈夫」って方法は私も分かりません。あるのなら私が教えていただきたいくらいです(笑)
ただ、全く対策がないわけではありません。
地折れは新しい舞扇ほど起こりやすくなります。それはまだ紙がきちんと折れる方向にクセがついていないから。
もちろんしっかりと折れている状態で紙と骨が付いているのですが、開いたり閉じたりという動きに紙はクセついていません。骨も固いですし、紙もクセがついていない状態なので、ちょっとした動きのズレで地折れになってしまうんです。
なので、確実なのは最初、手に馴染む、紙と骨が馴染むまではゆっくりと開閉することをオススメします(^^)
慣れた方ほどすぐにパタパタパタと開閉してしまうと思います。今までもその慣れた動きで扱えているわけですから。
ただ、本当に新しく作った扇は固い時がほとんどで、親骨の要の具合にもよりますが基本的には形は舞扇ですが、まだ何のクセもついていない紙と骨の状態です。
手間に感じるかもしれませんが、地折れ対策、そして紙と骨を馴染ませるためにも、ぜひお使いになられる前にゆっくりと何度か開閉してみてくださいm(__)m
地折れになった時の修繕方法はあるの?
では気をつけていたけど、地折れになってしまった時にどのように対処すればいいか?
たまに尋ねられることがあります。「地折れって直せないの?」と。
気持ちはものすごくわかります。決して安いものじゃない新しい舞扇ですし、どうにか元に戻せる、直せるものなら直したいですよね(^^;
これは結論から言うと…
直せないんですm(__)m
直したい気持ちは私にももちろんあるのですが、完全には直す方法はおそらくないと思います。
でも、少し使えるくらいには戻す方法はあります。
それは、これまた手間がかかりますが、ゆっくりと何度も開閉する…結局はこれです(笑)
一度裏側に入った紙のクセは直らないんですが、何度もゆっくりと閉じることで、少しですが通常のクセに近づいてはきてくれます。完全には直りませんが…。
踊りの際にパパパっと早く舞扇を閉じる動きがあるのなら難しいですが、ゆっくりと閉じる動きの踊りなら使っていただけるところまで直ると思います。
完全に直せないのが歯がゆいところですが。あくまで「マシになる」程度だと思ってください。
地折れのまとめ
いかがでしたでしょうか?本日はお扇子の”地折れ”についてのお話でした。
まだ舞扇に触れて数日の方、安心してください。年数は関係なく起こりますから、本当に。
私はチェックの際に意識してゆっくりと開閉するようにしてますので、ここ数年は地折れは幸いにもしておりません。
コンピューターのようにボタン一つ、スマホみたいに指でクリック一つで動かせる、扱えるものじゃないだけに、なかなか難しいところでもあります。
でも、1本のお扇子を作るために、何人もの職人さんの手によって作られているのも知っているだけに、コンピューターでは恐らくこれからも作られることがないであろう舞扇、本当に素晴らしいものだと日々感じています。
新しい舞扇と地折れ、今後も切っても切れないものだと思いますが、できるだけ馴染むまではゆっくりと開閉していただく事を意識していただけましたら幸いです。
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